Япония: цивилизация, культура, язык 2024
«ISSUES OF JAPANOLOGY, vol. 10» St-Petersburg State Univ 2024 205 「生きている」ことを実感し、二人が熱い「生」への意 欲を感じる場面で小説は終わる。 3.ポスト・コロニアリズム小説としての『熱源』 二人の主人公のうちの一人、ブロニスワフ・ピウスツキ の祖国リトアニアはポーランドと連携して共和国として 存在したが、プロイセン、オーストリア、ロシアによっ て分割され共和国は滅亡し、独立の回復が悲願となった。 そのための蜂起が何度もあったが強力なロシアの同化政 策により成功せず、遂にポーランド語は国禁となった。 失意のブロニスワフに生きる「熱」を感じさせたのが、 サハリンのギリヤークたちだった。彼らは文明とは遠く 離れていたが、人が生きることの原点を体現していた。 しかし、彼らはロシア語が解らないために役人や入植者 たちの蔑視、搾取の対象となっていた。アイヌも同じで ある。だからブロニスワフは彼らのためにロシア語を教 えることを考えた。(川越宗一は、この彼の意志に「人民 の中へ」というヴ・ナロード運動のスローガンを度々重ね て表現している。)文明に追われ、優勝劣敗の法則により 「滅亡の民」として生きることを余儀なくされたサハリ ンの先住民族たちが、文明国の公民として生きていける 知識を得、権利を主張する力を身につけることを目指し たのである。ヤヨマネクフは次のように考える 9 。 文明に潰されて滅びる。あるいは呑まれて忘れる。 どちらかの時の訪れを待つしか、自分たちにはで きないのか、別の道は残されていないのか。想像し た将来に、凍えるような感覚を抱いた。 その時、熱が生じた。それはすぐに言葉になった。 「—違う」 9 『熱源』 p.196.
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